ロシア外務省は29日、ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する両国間合意から無期限で撤退すると表明した。穀物輸出ルートの「安全確保」を担ってきた露黒海艦隊に同日、ウクライナ軍がドローン(無人機)で攻撃したことに対応した措置だと主張した。同国のゼレンスキー大統領は同日、ロシアの決定は予測されていたと指摘。「ロシアは故意に食糧危機を引き起こそうとしている」と非難し、再考を促すために対露圧力の強化が必要だと訴えた。
同合意からのロシアの撤退で、曲折の末に再開されたウクライナ産穀物輸出の先行きは再び不透明となり、世界的な食糧価格の高騰が加速する恐れがある。
同合意を巡り、ロシアは以前から撤退を示唆。合意を無効化してウクライナ財政を悪化させる狙いや、自国産穀物の輸出を増やして途上国などからの支持を拡大する思惑が指摘されてきた。実際、パトルシェフ露農相は同日、「ロシアはウクライナに代わり最貧国に穀物50万トンを無償提供し、望む国にも安価で供給する準備がある」と表明した。
露外務省の発表に先立ち、露国防省は同日、実効支配するウクライナ南部クリミア半島を拠点とする露黒海艦隊にウクライナ軍が空中と海中からドローン攻撃を仕掛け、一部の艦艇が損傷したと主張。ドローン攻撃を英国の特殊部隊が支援したほか、この特殊部隊がバルト海を通じてロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプラインを損傷させた「実行犯」だとも主張した。
露外務省は同日の声明で「ウクライナは穀物輸出合意を隠れみのに、輸出ルートの安全を確保してきた艦艇にテロ攻撃を加えた」と主張。タス通信によると、ロシアは国連にも合意からの撤退を通知した。
ウクライナはドローン攻撃の実施の有無についてコメントしていない。ただ、同国のゲラシチェンコ内相顧問は同日、クリミアの黒海艦隊の停泊所で爆発が起き、フリゲート艦「アドミラル・マカロフ」など複数の艦艇が損傷した情報があると交流サイト(SNS)で発表していた。
ウクライナ産穀物はロシアによる侵略を受けて輸出が停滞。世界的な食糧価格高騰の一因となった。ロシアとウクライナは7月下旬、国連とトルコの仲介の下で、輸出再開に向けた枠組みの設置に合意。8月から輸出が再開された。
しかし、プーチン露大統領は9月、「ウクライナ産穀物の大半が欧州に送られ、途上国にほとんど届いていない」「合意の見返りとして約束されたロシア産穀物の取引制限の解除措置が進んでいない」などと不満を表明。露外務省も状況が改善されない場合、11月にも合意から撤退する可能性を示唆していた。
EU含めて、全世界で穀物輸出ができなければ深刻な食糧危機や物価高騰になることは避けられない。